ラーメン店主

【第4話】時間がかかっても味に拘り「価値」を上げていきたい「中華そば 田むら」

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青森市のランドマーク・サンロード青森近くに、青森一煮干し濃度が高いと噂されるラーメンがある。そのラーメンの名は「鬼煮干し」、名前からも想像がつくように「これでもか、これでもか!」という位の煮干しを使いミソラーメンと見間違うような色合い。煮干しラーメン好きの青森県民には、何店もある煮干しラーメン店を巡り続け、最後の最後でたどり着く「最終地点」のような扱いを受けている。
そのラーメンを提供しているのが、今回紹介する「中華そば田むら」の店主・田村信成さん。昭和45年生まれで、沖館小、沖館中と進み、青森南高校を卒業する。
P1220672今のガッチリした体型からは想像しづらいものの、中学校時代はバスケットボール部で汗を流していたとの事。高校卒業後は、地元のデザイン会社に勤め、紙媒体中心の版下・写植を担当。会話をしていてもデザイナーの片鱗を伺う事が出来る。30歳の時に、長年勤めたデザイン会社が倒産する憂き目に。そこで次の職を考えていた時に、興味のあった飲食業界で生きていく事を決意する。ホテルの洋食見習いから、ダイニングバー、居酒屋と様々な飲食業界を経験する。休みの日になると、ラーメンを食べ歩く事も多く、その中で出会った弘前の煮干しラーメンの名店「たかはし」に興味を持ち、居酒屋で働いている時に、仕事の関係で知り合いになった現在「ひらこ屋」を経営する三上さんと出会う。その当時、幸畑で「雷門(らいもん)」を経営していた三上さんが、新しい場所で雷文とはべつの形態のラーメン屋「ひらこ屋」を出す事を知り、そこのオープニングスタッフになるべくラーメン業界へ転じる事になる。

P1200658雷門で基本的なラーメンの作り方を学んだ後、三上さんと一緒に「ひらこ屋」の新しい煮干しラーメンを作り上げるべく、試行錯誤を繰り返しながら味を作っていった。そこで技術を学び、ラーメン作りにも興味を持ち始めた頃、自分の味と自分のペースで働きたくなり、2006年6月、今の場所(サンロード青森近く)に「中華そば 田むら」をOPENする。当初、目指したのは「アッサリ煮干しラーメンと濃い煮干しラーメンの区別をはっきりさせたかった」との事。

P1220682田むらの麺は、自家製麺。煮干しの風味を引き立たせ、かん水を控えめにするために、麺の表面ではかん水を使用せずなめらかな口当たりに重きを置き、麺の芯にあたる部分にかん水を使用してコシを出す2重構造となっている。出汁ひらこ煮干しの頭とワタを取り味を安定させる事を重要視し、いりこ(片口いわしの小さい物)を合わせる。鬼煮干しのスープは、この魚介出汁に15時間煮出したトンコツ、鶏ガラを加え調整されたもの。
トンコツスープは、朝7時から夜の12時まで毎日煮込むため、田村さんは1週間のうち店の休みの水曜日以外は、家に帰らず店に寝泊まりしている事を聞いたのは驚きだった。風呂や食事は外で軽く済ませ、夜の12時に仕込みを終えてからの睡眠時間を確保するためとの事。
P1220687だからと言って、ストイックなラーメンの鬼という訳ではなく、物腰の柔らかい、ゆったりとした感じで、色々聞かれる質問に対して丁寧に語ってくれる。聞きづらい質問だったが、周囲の人達から、たまに言われる、

1,ラーメンを注文してから出てくるまで時間がかかるんで短縮して欲しい

2,夜も営業して欲しい

という2つの要望を、質問してみると、理由はアッサリ理解できた。
まず、ラーメンが出てくるまでの時間。それは58席というラーメン屋にしては大きい方の部類に当たるにも関わらず、

店主1人だけで作っているから

というのが全てであろう。同業の友人からも、他の人にも任せてみてはどうかという事は言われるものの、

「自分の味に拘りたくて店を作ったので、体が続く限り自分で全て作りたい。」

との事。この拘りがある限り、混雑時の配膳時間の短縮はなされないであろう。話を聞いていても、「1杯の価値を高める」という言葉が何度も出てくる。こればっかりは理解する以外に対処策はなさそうである。

 2番めの夜の営業に関しては、仕込みに15時間使っている事もあり、体力・集中力が持たないためとの事。これも美味しい1杯を出すための心がけだと言える。
 1週間、店に泊まりこみ、週1日の休みも、銀行に言ったり雑用をこなして、夜に軽く飲みに行ったら終わってしまうラーメン一筋にも見える仕事っぷりだが、語る口調からは、それでもラーメン作りという仕事を、心から楽しんでいる気がする。
P1220684 煮干し会に入ったのは、懇意にしてもらっている「ひらこ屋」の店主・三上さんから誘われたからとの事だが、青森の煮干しラーメンの価値を高めるような創作活動や広め方を手伝っていきたいと、ここでも「価値を高める」という言葉を語ってくれた。
 味への拘りは、これからも

「濃い中でもスッキリ食べやすい事と、味のパンチを出したい。」

と即答。将来的にも店を増やすとか大きくするとかは全く考えておらず、自分が拘るラーメンを自分で作り続けていきたいとの事。デザイン会社から始まり、常に何かを作り続けてきた職人らしい、気持ちのいい一言だった。

■煮干しラーメン データ

■店名 中華そば 田むら
■製麺所 自家製麺
■煮干し ひらこ煮干し、いりこ
■特徴 アッサリと鬼煮干しのハッキリと区別されたラーメン
2015-02-20 | Posted in ラーメン店主No Comments »