ラーメン店主
【第3話】私には、これしか作れません「高長まるしげ」
青森市長島に何十年も前から、うどんのような太さの麺と、煮干しだけでとった出汁で、シナチクとチャーシューが乗っかっていなければ、誰から見てもラーメンには見えない有名なラーメン店がある。青森市出身の元プロボクシング世界チャンピオンの畑山隆則さんが、子供の頃からタクシー運転手だった父に連れて行かれ、青森に帰ってきたら、そこのラーメンを食べないと帰ってきた気がしないと言わせるだけ、青森市民に愛された味。その味を忠実に受け継ぎ、中心市街地から離れた郊外で提供し、長島の店と同じくらい市民に愛されている店が、今回紹介するお店「高長まるしげ」。 店主の高杉茂樹さんは、昭和25年生まれの御年65歳。篠田小、古川中、山田高校と進み、高校卒業後は飲食業界とは全く関係しない一般の会社に就職。高校時代スポーツは、やっていなかったものの、働きながら柔道道場に通い2段の腕前。子ども達が小さかった頃は、道場で教えていた事もあるとの事。 高杉さんが28歳の頃、青森市にサンロード青森がオープンし、成田本店で運営する喫茶部で求人募集をしている事を知り、青森に帰って仕事をしたくなった時期でもあったので、東京から戻り就職。サンロード青森の2階に当時あった「ブックレット」という喫茶店のチーフとして4年を過ごす。そこで調理全般を学び飲食業界が好きになっていた頃、社内の人事異動で、新町にある本屋のレコード売場へ勤務する事に。 合わない訳ではなかったが飲食業界で働きたくなり、昭和59年34歳の時に退社。その頃既に、今も一緒に店を切り盛りしている裕美子さんと結婚しており、裕美子さんの実家である長島の店で何度も食べた煮干しラーメンの味に惚れ込んでいた事もあって、退社後、裕美子さんの実家であるラーメン店で修行しながら、昼だけ営業している形態だった店を夜に間借りする形で名前を今の「高長まるしげ」と、のれんを変え1人で始める事になる。 何年かは修行を兼ねて昼の営業も手伝いながら技術を盗むように覚えていった。先代は、何も言わず、ただひたすら見て覚えろという職人肌だったので、麺から出汁のとり方まで、自分の味にするまでは、昼夜兼任で働いた。完全に夜の営業を1人で切り盛りするようになってからは、昼には食べに来られないお客や、夜のタクシー運転手が立ち寄る店となり、店は昼に負けないくらいの賑わいを見せるようになる。
まるしげのラーメンの特徴を上げると、麺はうどんよりちょっと細いくらいの中太縮れ麺で量も1人前270gと普通のラーメン屋なら大盛りになるボリュームと、肉厚のあるチャーシューが占領しており、メニュー自体にチャーシュー麺が無い程、麺も肉もボリューム満点なところ。それを、ひらこ・片口いわしだけで取った、あっさりした出汁で、かきこむように食べるのが醍醐味。まるしげのラーメンを愛するファンは、みんなこの言葉を発し店を後にする。 「あ~、さっぱりした」 一風呂浴びたような、この言葉こそが一番しっくりくる表現だろう。
20年間夜のみの営業だった店は、2006年8月、郊外に店を移し、昼・夜通しての営業となり、2014年末に店舗拡大をするために再移転し、今の場所となる。今の場所になってからは、修行した長島の店と同じように朝から昼までの営業形態に変わった。仕込みの時間も当然早くなり、朝4時には2階にある住居から降りてきて3時間、麺40kgを製麺機で作り、15kgものチャーシューを煮込む作業を店主1人でこなすため、1日で提供出来る量は限られる。
まるしげの味の変遷を聞いてみると、使う煮干しの量は若干増え、麺は年齢もあり手捏ねから機械に変えたという違いはあっても、基本的な部分は30年間一切変えた事は無いと即答された。他のラーメン屋の味を意識したりしたこともなく、新しいメニューを加えることもなく、この味一本でやって来たと言い切る。 休みの日に、他のラーメン屋に行ったりしないのかとも聞いてみると、うどん・そば・ラーメンと麺類一般的に好きだが、意識して他のラーメン屋に行った事も無いと、さらっと言う。 煮干し会に参加した理由を聞いた時も、何かを学ぼうと思って入ったとか、個人的に何かをしようとした訳ではなく、 「大ちゃんに誘われたから。それだけ。」 と、親子くらい歳の違う会の代表でもある長尾中華そば店主の、お手伝いをしたくなっただけと、笑いながらあっさり言い切る。 仕事をしてる時は怖そうに見えるという客も私自身良く聞くものの、付き合ってみると、良くしゃべるし、よく笑う明るいおっちゃんというのが、私の感想。昔は、インターネットを見れない事もあってカメラで写真を撮られたりするのが、何を書かれているのか分からない怖さで撮影禁止にしたりしたけど、沢山の常連のお客さんが宣伝してくれたりしているのを知り、今では完全に慣れて、撮影禁止の貼り紙も店の移転と同時に貼らなくなったエピソードも教えてくれた。
店を大きくした理由の一つに、東京にいる息子さんに継いでもらいたいとか、考えての事かとも尋ねたが、
「無いって訳じゃ無いけど、本人の人生だから。本人の人生が一番だから。」
って、お父さんの優しい顔で笑っていた。
今まで味を変えなかった事も聞いてみると、ポツリと、
「自分のラーメンを食べると、ホッとするんだ。1年365日、30年間毎日食べてる。女房と一緒に、美味しい、美味しいって毎日。何回食べても飽きないんだ。」
と答えてくれた。 他のラーメン作ってみようとか、考えなかったのかも聞くと、
「私には、これしか作れません。ほんと、それしか出来ない人間だから。」
って言い切った店主「茂さん」の笑顔は、謙遜しながらも今まで30年やってきたからこそ言えるかっこいい一言だった。
■煮干しラーメン データ
■店名 | 高長まるしげ |
■製麺所 | 自家製麺 |
■煮干し | ひらこ、片口いわし |
■特徴 | アッサリした出汁に、山盛りの麺とチャーシュー |