ラーメン店主

【第2話】昔ながらの食堂の味をそのままに「原食堂」

P1200202 昭和50年代、青森市内でも賑わいを見せていた堤町に1軒の食堂が移転してきた。廣田神社近くで始まった食堂は、浦町、松原と場所を変え、今の場所に落ち着き40年近く地元に愛され、今では情報を知ったラーメン通にも評価されるまでにもなった。
その店の名は「原食堂」。葛原(くずはら)という名前が覚えられにくいという事から縮めて今の名前になったと教えてくれたのが、現在の店主であり2代目の葛原竜治さん。甲高い声で笑顔をふりまく明るい店主さんの人柄も常連に愛される理由だろう。
奥さんの美穂子さんとパートさんで、出前までこなす堤町のシンボル的な食堂の1つ。
P1180412 店主葛原さんは、食堂のある現在の場所で育ち堤小、浦町中、南高校と進み、高校まで野球部に所属し、高校卒業後は地元の会社に就職したが、本人曰く飽きやすい性格で、どれも長く続かず職を転々とし東京へも働きに行っていた事があったとの事。そんな生活が続く中、22歳の時、母親が病で倒れ、実家である原食堂を助けざるを得なくなり帰省し軽い気持ちで手伝いを始める事に。父親である先代・明さんの補助という形で働きだし、最初は雑用や裏方をこなし、やっと慣れてきた頃に原食堂のメニューを作りたくなり、父親にレシピを尋ねると、ラーメン・そばの製麺から調理まで、何から何までレシピのようなものが一切ない上に、聞いても何も教えてくれず、「目で見て覚えろ」の一点張り。しょうがなく自分で作り始めたものの、水の分量から練り方まで何もかも父親の仕事を見ながらの手探り状態。それでも父親は何も言わず、竜治さんの仕事を見守り、怒ったり指摘もせず、何年かが過ぎる事に。自分で考え、季節に合わせ麺の水の分量を変える必要性にも気づいてくると仕事が楽しくなり、何をやっても続かなかった事が昔話になるかのように、仕事にのめり込んでいった。30歳の時に、仕事にもある程度の自信がついてきた頃、高校が一緒だった美穂子さんと結婚し、1女にも恵まれ今に至る。
P1200190 原食堂は、丼物、そば・うどんとメニューも豊富なのが特徴。竜治さんの代になってから、ラーメンと小丼をセットにしたものや「スープカレーラーメン」という食堂には逆に珍しいようなメニューも。
その中の1つに、B級グルメとしても注目されている中華そばに天ぷらが乗った「天婦羅中華」が。これも最近のものかと聞いたら、これは昔から定番であるメニューとの事だが、青森市内で天婦羅中華を食べられるのは、ここだけだろう。
(五所川原の「亀乃家」さんでは、名物として有名)
麺も自家製で作っており、重要な点を聞くと、最初の段階で行う「手ごね」季節に応じた「水加減」であると教えてくれた。これをきちんと自分の物にするまでに、
P1100657 「10年はかかったんじゃないかな~」と笑いながら教えてくれたが、いくらレシピが無いとは言え、それだけじゃなくプロのレベルとして、安定した味を、お客の前に出せる物になるまでは、それだけの時間と努力が必要なんだろう。
スープは、 「うるめ」「かたくち」イワシの煮干のブレンドで、これに鶏ガラ、豚ガラ、昆布を加え、全ての素材の良さが出る「優しい味」を心がけているとの事。煮干スープで拘っているところは、量ではなく煮干から出る「脂」の出方で味を調節しているとの回答。竜治さんがスープを担当するようになってから、若干自分なりのアレンジを加えたりしたが、歳を重ねるごとに、昔ながらの味に原点回帰するようになっていったとも教えてくれた。
P1200194確かに原食堂のラーメンを食べると、津軽そばがルーツと言われる蕎麦屋のラーメンの味を醸し出しており、今風とは言えない懐かしい味がする。沢山選択肢のある現在のラーメンの中で、原点回帰こそが逆に「新しい味」とも言えなくもない。
丼物も人気で、そこの拘りも聞くと、カツ丼、カツカレーで使っているカツは、県産豚を使い自分で揚げているとの事。以前は肉屋で作ってもらったトンカツを仕入れていたが、自分で揚げるようになってから格段に旨くなり、それから10年近く、値段の変動があっても変えずに味を守っている。出汁の効いたカレーとの相性も抜群で、ラーメンとカツカレー、ラーメンとカツ丼のセットを頼む客が多いのも頷ける。
P1180422そんな老舗の食堂が、ラーメン屋が集まる煮干し会に参加した経緯を聞いてみた。
数年前から店によく来てくれる長尾中華そばや五丈軒の店主と話をしたり、実際に店へ出向き新しい味のスタイルに刺激を受けたのと、自信を持って「自分の味」を貫く姿勢に感銘を受け、葛原さん自身も自分の味に自覚と自信を強く持ちたくなり、参加して色々な事を学びたくなったとの事。煮干し会に参加した後、一層ラーメンの味に対して拘りが出てきたのと、他のラーメン屋に行って食べる時でも意識が変わってきたのが収穫だとも。
P1200193老舗の味を守りながらも、自分自身に自信を持ち、味にも自信を持ちたいと、明るいトーンで話す葛原さんは、既に自分を持っている「立派な自信」を感じた。
 娘さんが店を継承していくか尋ねると、全く考えておらず、自分の代で原食堂は終了させる予定だと。ずっと、このままやっていくのかも分からないし、夢としては「ビートルズが聴ける喫茶店にして、ラーメンを出してみたい」と笑って言う葛原さんは、どこまでも明るい老舗店主さんだった。

■煮干しラーメン データ

■店名 原食堂
■製麺所 自家製麺
■煮干し うるめ、片口いわし
■特徴 煮干しや他の素材のバランスを考えた昔風の中華そば

 

2015-02-04 | Posted in ラーメン店主No Comments »